Ledger の Zilliqa アプリのバグで秘密鍵が漏洩する可能性が指摘された問題では、危険に晒されるのは旧 Zilliqa チェーンのアドレスに紐づく資産のみで、XRP や XLM、EVM チェーン上の他の暗号資産が影響を受けることはない。Zilliqa 公式も正式にこの見解を表明しているため、異なるブロックチェーン上の資産を標的にした攻撃は不可能だ。
Zilliqa アプリのバグで何が起きたのか

問題の発端は、Ledger デバイス内の Zilliqa アプリで取引署名時に使われる nonce(ナンス:一度限りの使い捨て番号)の生成に不備があったことだ。
具体的には、本来ランダムであるべき nonce の値に偏りが生じ、同一の秘密鍵で署名された複数の取引から、数学的な手法(lattice‑reduction 攻撃)を使って秘密鍵そのものを復元できる可能性が指摘された。
このバグの影響を受けるのは、旧 Zilliqa ネットワークのネイティブアドレスのみだ。取引署名の際に問題が起きるのは Zilliqa アプリ固有の実装であり、他のアプリ(XRP や XLM、Ethereum 等)の署名ロジックには一切影響しない。
古い Zilliqa チェーンと新しい Zilliqa EVM チェーンの違い

多くのユーザーは、Ledger で「Zilliqa」という名前のアプリを1つだけ使っていると認識しているかもしれない。しかし実際には、以下の2つのアドレス体系が存在する。
- 旧 Zilliqa ネイティブチェーン:ZIL の送受信に使われてきた従来のアドレス。今回 nonce の問題が報告されたのはこちら。
- Zilliqa EVM チェーン:Ethereum 互換のアドレス形式(0x…)で動作する新しいネットワーク。すでに移行済みの資産はこちらに保管されている。
公式発表によれば、EVM チェーン側では nonce の扱いが Ethereum と同じ仕組みになるため、今回の脆弱性の対象外だ。旧チェーンから移行を済ませている場合は、すでに問題のアドレスは空になっている可能性が高い。
秘密鍵が漏洩しても他のチェーンは安全な理由

秘密鍵が数学的に復元されるといっても、攻撃者が手に入れられるのは「その特定の秘密鍵で管理されているアドレス」の操作権限のみだ。
Ledger デバイスは BIP32/BIP44 といった階層的決定性ウォレット(HD ウォレット)の仕組みを採用している。簡単にいうと、1枚のカードから枝分かれした複数の別々の鍵を生成するようなイメージで、チェーンごとに異なる派生パスを通じて独立した秘密鍵が作られる。
つまり、Zilliqa アプリの署名で使われた秘密鍵が仮に漏洩したとしても、それは Zilliqa 用に派生した1本の枝にすぎない。XRP 用や XLM 用、Ethereum 用に派生した秘密鍵は数学的に全く別物であり、一方から他方を推測することはできない。これは業界全体で広く認められた暗号学的な前提であり、Zilliqa 公式も今回の声明でこの点を強調している。
いま取るべき具体的な対応

旧チェーンに ZIL が残っていないか確認する
まず、旧 Zilliqa ネイティブチェーンのアドレスにまだ資産が残っているかどうかを確認する。EVM 移行を終えている場合でも、少額の ZIL やステーキング報酬が旧アドレスに置き去りになっているケースがある。
確認には Zilliqa 公式のブロックチェーンエクスプローラーを使い、自分の旧アドレスで検索すればよい。
速やかに新しい EVM アドレスへ資産を移動させる
資産が残っている場合は、Ledger デバイスで通常の送金操作を行い、旧アドレスから自身の Zilliqa EVM アドレスへ全額を送金する。
取引の署名時には引き続き Zilliqa アプリを使うことになるが、残高をゼロにした後はそのアドレスに資産が存在しないため、仮に秘密鍵が復元されても被害は発生しない。
Ledger Live とアプリを最新バージョンに更新する
Zilliqa チームがアプリ側の修正をリリースしている場合は、Ledger Live の「マイ Ledger」タブからファームウェアとアプリを最新版にアップデートする。修正内容はリリースノートで確認できる。
今後は旧 Zilliqa アドレスを使わない
一度問題が報告されたアドレス形式であり、たとえ修正後も「万が一」を避けるため、旧アドレスへの再入金は控えるのが無難だ。新規の取引はすべて EVM アドレスで行う。
よくある質問
Ledger デバイスそのものを交換する必要はあるか
不要だ。問題はデバイス本体のセキュアエレメントではなく、Zilliqa アプリ固有の署名実装に起因する。デバイスを初期化したり買い替えたりする必要はない。
他のチェーンの秘密鍵が流出していないか確かめる方法はあるか
基本的に確認する必要はない。HD ウォレットの暗号学的な分離により、Zilliqa の鍵から他チェーンの鍵を導出することは不可能だ。どうしても不安な場合は各チェーンのエクスプローラーで取引履歴を監視し、身に覚えのない送金がないかを定期的に見ればよい。
旧 Zilliqa アドレスから EVM アドレスへ送金する際の手数料はどうなるか
旧チェーン上での送金には通常の ZIL がガス代として必要になる。残高が少なすぎて送金手数料を下回る場合は、取引所から旧アドレスへ少額の ZIL を送って手数料を補充するという方法がある。ただし、極小のダスト(微量残高)は無理に回収せず放置しても実害はない。
Zilliqa 公式の声明はどこで確認できるか
Zilliqa の公式 X(旧 Twitter)アカウントおよび公式ブログで、旧 Zilliqa アドレスのみが影響を受ける旨の声明が発表されている。詳細や最新情報はこれらの公式チャネルを参照するのが確実だ。
この記事のポイント
- 脆弱性の影響範囲は旧 Zilliqa ネイティブアドレスのみで、XRP や XLM、EVM チェーンは全くの無関係
- HD ウォレットの暗号学的分離により、あるチェーンの秘密鍵から別のチェーンの鍵を復元することは不可能
- 旧アドレスに資産が残っているなら、速やかに自身の Zilliqa EVM アドレスへ全額移す
- Ledger 本体の買い替えや初期化は不要。アプリとファームウェアの最新化で十分対応できる
- 公式声明がすでに出ており、他チェーンへの影響は否定されているため過度な心配はいらない

「エミリーズ・クリプト・インサイダー」のリサーチ担当として、暗号資産の現場で日々生まれる疑問や悩みを丹念に追いかける。
Reddit や海外フォーラムに寄せられる声を読み解き、「初心者がつまずきやすいポイント」「経験者でも見落としがちな落とし穴
」を一つずつ記事として整理している。
専門的な話を誰もが理解できる言葉に置き換えることに全力を注ぐ。情報の正確さと読みやすさの両立を信条としている。
