欧州委員会が、暗号資産の規制枠組み「MiCA」の見直しに向けた意見公募を開始した。既存ルールの再調整として、業界からは「MiCA 2.0」とも呼ばれる動きだ。
2024年12月に全面適用が始まったMiCAは、加盟国に統一的なルールをもたらし、暗号資産ビジネスに法的基盤を与えた。意見公募では、ステーブルコインやDeFi(分散型金融)、予測市場などが主要テーマに設定されている。
業界各社からは、EUが先行者利益を維持するには、運用面で見直しが必要との声が上がっている。以下、専門家の見解を交えながら論点を整理する。
MiCAの経緯と「MiCA 2.0」の位置づけ

MiCA(Markets in Crypto-Assets)は、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産を対象とするEU初の包括規制だ。2024年末から本格施行され、数か月で最初の事業者ライセンスが発行された。
立法プロセスは長期化したが、EUは米国に先駆けて暗号資産のルールを整備。Coinbaseの欧州政策責任者ケイティ・ハリーズ氏はCointelegraphの取材で「MiCAは早期のグローバルな基準を設定し、EUに先行者利益をもたらした」と評価している。
意見公募の4つの柱
欧州委員会は2026年5月に意見公募を開始。トークン化、ステーブルコイン、DeFi、予測市場の4分野にわたって見直しのたたき台が示された。なかでもステーブルコインに関する部分が「最も長く、政治的にもセンシティブなセクション」と指摘されている(Notabene、カタリナ・ヴェローゾ氏)。
ステーブルコイン規制の見直し点

現行MiCAでは、Eマネートークン(EMT)発行者は利息を提供できない。この制限は利用者保護が目的だが、ユーロ建てステーブルコインの競争力を削ぐ要因にもなっている。
準備金とリワードの柔軟化
ハリーズ氏は、準備金の一部を「高品質のソブリン資産」で運用できるようにすれば安全性を損なわずリスクを減らせるとの見解を示す。加えて、現在禁止されている利息に代わり、キャッシュバックやロイヤルティプログラムといった非金利インセンティブの導入を求めている。
ヴェローゾ氏も、利息禁止が「ユーロ建ての競争力を損ない、利用者を国外のステーブルコインや規制外の利回り商品に流しかねない」とCointelegraphに指摘。支払いの補完手段として一般利用が広がれば、政策の重点は投資家保護から流動性や運営の安定性にシフトする可能性がある。
ユーロ建てステーブルコインの競争力向上
業界内では、EUがデジタルユーロ政策とも整合させながら、多発行モデルやリワード設計を認めるべきとの意見が強まっている。これが実現すれば、利用者の選択肢が増え、小売・機関投資家双方の受け皿として機能しやすくなる。
DeFiへのアプローチと「分散性」の評価

現行MiCAは、完全に分散化し仲介者が存在しないCASP(暗号資産サービスプロバイダー)を規制対象外としている。しかし、実際には「完全な分散」と「部分的な集中」の境界は曖昧だ。
何が「完全に分散型」か
ヴェローゾ氏は、分散性の評価指標として「プロトコルの支配権、ガバナンス権、管理キー、フロントエンドのコントロール、収益の捕捉、アップグレード可能性、特定人物の影響力」などを挙げる。規則をどう適用するかは、これらの「非バイナリーな要素」に大きく依存する。
CASPのデューデリジェンス義務と認証制度
Taylor Wessingのシニアアソシエイト、ミロスラフ・ジュリッチ氏は、既に多くのCASPが顧客とDeFiプラットフォームを接続している事実を踏まえ、規制当局が「CASPは顧客に対するフィデューシャリー・デューティ(受託者責任)として、接続先DeFiのデューデリジェンスを行うべきか」と問うている、とCointelegraphの記事で解説する。
欧州委員会は、CASPが認証を受けたDeFiプラットフォームのみに接続を許可するというアプローチも検討中だ。この新たな認証制度が導入されれば、DeFiプロジェクト側にも実質的な規律が及ぶことになる。
予測市場と今後のスケジュール

予測市場の規制上のグレーゾーン
意見公募は予測市場についても、「消費者に経済的利益をもたらすか」「MiCAまたはMiFID(金融商品市場指令)のどちらに該当するか」といった質問を投げかけている。EU内では国によって賭博規制との境界が異なり、統一ルールは存在しない。
ジュリッチ氏によれば、プラットフォーム上のイベント契約の性質次第で、事業者はMiFID IIや賭博規制、MiCAといった異なる枠組みの要件を同時に負うリスクがある。これが事業の予見可能性を損ねているのは明らかだ。
MiCA 2.0の実現は2028年以降か
意見公募の締め切りは2026年8月31日だが、ジュリッチ氏は「EUの立法プロセスの通常のペースと、提起された論点の複雑さを考えれば、具体的な法案が採択されるのは2028年以降になる」と見ている。業界からは、実務的なフィードバックを反映しつつ、スピード感を持った議論を求める声が上がっている。
ハリーズ氏は「次のフェーズへ進むには、規制が実際にどう機能しているかを学び、より明確で柔軟なルールへと磨き上げる対話が欠かせない」と述べ、引き続きブリュッセルとの協調姿勢を強調した。
この記事のポイント
- EUがMiCAの見直し「MiCA 2.0」に向けた意見公募を開始し、ステーブルコイン・DeFi・予測市場が主要テーマに
- ユーロ建てステーブルコインの競争力強化には、準備金柔軟化と非金利インセンティブの解禁が焦点
- DeFi規制では「完全な分散」をどう判断するかが難題。CASPのデューデリジェンス義務や認証制度も検討
- 予測市場はMiFIDや賭博規制との整合性が課題。事業者に複数規制が重なるリスクが指摘されている
- 意見公募は8月31日までだが、法改正の実現は2028年以降になる見通し。業界は継続的な対話を重視

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