仏で暗号資産企業幹部の妻が誘拐未遂被害、関連犯罪が急増

フランスでまた、暗号資産に関連した凶悪事件が発生した。ブロックチェーンゲーム「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」の共同創業者の妻が、自宅で誘拐未遂の被害に遭ったのだ。

仏紙ル・ジュルナル・ドゥ・ディマンシュ(JDD)によれば、6人組の犯人グループは宅配業者を装って邸宅に侵入。近隣住民の介入がなければ、取り返しのつかない事態になっていた可能性がある。2026年に入り、フランスでは暗号資産に絡む誘拐・誘拐未遂が急増しており、当局も警鐘を鳴らしている。

事件の全容、宅配業者を装った6人組

事件の全容、宅配業者を装った6人組

事件が起きたのは、フランスのセーヌ・エ・マルヌ県ヴィルノワにあるThe Sandbox共同創業者セバスチャン・ボルジェ氏の自宅だ。JDDの報道によると、犯行グループは周到に計画を練っていた。

まず、ブランドロゴの入ったベストを着用し、段ボール箱を抱えた1人組が宅配業者を装って訪問。ボルジェ氏の妻が門を開けた瞬間、待機していたフードを被った5人の共犯者が中庭に雪崩れ込み、彼女を力ずくで車に押し込もうとした。

転機となったのは、被害者の悲鳴だ。異変を察知した近隣住民が駆けつけたことで、犯行グループは逃走を余儀なくされた。6人のうち4人は用意していた車両で現場から離脱。残る2人は徒歩で逃走し、近くに身を潜めた後に配車サービスを呼んだという。

だが、この2人組の逃走は長く続かなかった。通報を受けたモー犯罪対策班が、配車車両をほどなくして阻止。車内からはマテオ・V(2010年生まれ)とワリド・H(2009年生まれ)の2人が拘束された。2人はいずれもセーヌ・サン・ドニ県パンタンの住民で、模造拳銃や結束バンド、目出し帽を所持していた。残る4人の行方は依然としてわかっておらず、中央保安局が捜査を主導している。

暗号資産関連犯罪がフランスで急増、欧州の8割を占める異常事態

暗号資産関連犯罪がフランスで急増、欧州の8割を占める異常事態

今回の事件は、単独の凶行ではない。むしろ、フランス国内で急激に拡大する暗号資産関連暴力犯罪の一環だと見られている。

JDDが仏司法警察総局のデータとして伝えたところによると、2026年1月1日以降だけで、暗号資産に関連する誘拐および誘拐未遂がフランス国内で41件も記録されている。これは驚異的なペースだ。さらに、2023年からの累計では135件に達する。

この数字は世界でも突出しており、フランスは暗号資産関連誘拐の「世界的中心地」と化している。欧州全体の事件の実に80%近くが、フランスで発生している計算になる。暗号資産が富裕層を中心に普及し、かつ物理的な脅迫によって比較的容易に資産を移転させられる特性が、犯罪者を引き寄せているとの見方が強い。

相次ぐ凶悪事件の実例

The Blockが追跡してきた近年の事例だけでも、その深刻さは明らかだ。2026年4月には、覆面の侵入者らが暗号資産を保有する一家を銃で脅し、約820,000ドル相当のデジタル資産を強制的に送金させる事件が発生。同月にはフランス当局が暗号資産絡みの誘拐や住居侵入に関与したとして、88人を起訴する大規模摘発も行っている。

また、これより前にも、暗号資産取引所Paymiumのピエール・ノワザCEOの娘(当時妊娠中)がパリの昼間に誘拐未遂の標的となり、バイナンス・フランスの責任者も自宅侵入手口で狙われた。いずれも、暗号資産関係者の家族が「物理的な弱み」として標的にされやすいという現実を浮き彫りにしている。

The Sandboxとは、メタバースとSANDトークン

The Sandboxとは、メタバースとSANDトークン

セバスチャン・ボルジェ氏(40)は、The Sandboxの共同創設者兼COOとして知られる。The Sandboxはイーサリアムブロックチェーン上に構築されたメタバース(仮想空間)プラットフォームだ。ユーザーはNFT(非代替性トークン、唯一無二のデジタル所有権証明書)や独自トークンであるSANDを使って、ゲーム体験を構築・収益化できる。

言い換えれば、マインクラフトのようなブロック遊びの世界に、土地(LAND)やアイテムの所有権と経済圏をブロックチェーンで組み込んだ巨大なオンラインゲーム、というイメージだ。SANDトークンは、この仮想経済の基軸通貨として機能している。

JDDの報道では、今回の誘拐未遂の初期捜査段階で、事件が暗号資産に関連するものであることが示唆されている。ボルジェ氏自身の知名度と事業規模が、直接の標的となった理由だと推測されているが、捜査の進展によってさらなる詳細が明らかになるだろう。

業界に広がる衝撃と政府の対策

業界に広がる衝撃と政府の対策

この事件は、暗号資産業界全体に新たな波紋を広げている。経営幹部や開発者だけでなく、その家族までもが現実世界で危険に晒されるという構造的な脅威が、改めて浮き彫りになった格好だ。

個人の資産情報がブロックチェーン上で半ば公開されていることや、匿名性の高い資産移転が可能なことが、物理的な脅迫犯罪を誘引している側面は否定できない。業界内では、資産保有状況や所属プロジェクトをSNSで安易に公開することへの注意喚起が、より一層強まると予想される。

JDDによると、フランス政府も対策に乗り出した。2026年のパリ・ブロックチェーン・ウィークで、ジャン・ディディエ・ベルジェ大臣代理人は、一連の事件を受けた予防措置として、専用の被害防止プラットフォームの立ち上げなど新たな施策を発表している。しかし、犯罪の増加ペースに制度整備が追いついているとは言い難く、実効性を疑問視する声も根強い。

この記事のポイント

  • The Sandbox共同創業者セバスチャン・ボルジェ氏の妻がフランス自宅で誘拐未遂の被害に遭い、6人組のうち2人が逮捕された
  • 宅配業者を装って邸宅に侵入する周到な手口で、近隣住民の介入により未遂に終わった
  • フランスでは2026年だけで41件の暗号資産関連誘拐が発生しており、欧州全体の約80%を占める異常事態となっている
  • 業界関係者の実生活におけるセキュリティリスクが深刻化しており、物理的な脅迫から身を守る対策の重要性が高まっている
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