Tetherが23億ドル相当の金を活用、XAUT担保ローンを提供開始へ

ステーブルコイン発行企業Tetherが、保有する約23億ドル相当の金準備を活用した新たな融資サービスを発表した。トークン化された金であるXAUTの保有者が、現物の金地金を売却することなく、それを担保に資金を借り入れられる仕組みだ。

この動きは、Tetherが世界最大のステーブルコインUSDTで得た莫大な収益を元手に、事業の多角化を加速させている最新の事例である。同社はすでに金関連事業を重要な柱の一つと位置づけており、スイスの金庫に保管された約140トンもの現物金を保有するに至っている。

Tetherの23億ドル規模の金準備が動き出す

Tetherの23億ドル規模の金準備が動き出す

Tetherが保有する約23億ドル相当の金準備は、XAUT(Tether Gold)と呼ばれるトークンの裏付け資産だ。XAUTは1トークンが1トロイオンスの金を表し、スイスの金庫に保管された現物の金地金と紐づいている。価格は金の国際価格に連動し、トークン保有者は理論上、いつでも現物の金と交換できる仕組みを持つ。

金担保融資、伝統的には中央銀行や大手機関の領域

金を担保にした融資は、これまで主に中央銀行や大手金融機関、金地金ディーラーといった限られたプレイヤーの領域だった。彼らは保有する大量の金を担保に差し出し、資金調達を行う。個人投資家や中小企業が金を担保に資金を得るには、換金して現金化するか、金地金を買い取ってくれる業者を探すしかなかった。

Tetherと提携先の暗号資産融資プラットフォームLednは、この構図を変えようとしている。金をトークン化することで、ビットコインを担保にしたローンと同様の使い方が可能になる、というのが両社の主張だ。つまり、現物資産である金をデジタル担保として機能させ、価値を売却せずに流動性を引き出せるようにする。

ビットコイン担保ローンの成功モデルを金に応用

Lednは数年にわたり、ビットコインを担保にした融資サービスを提供してきた実績がある。顧客が預けた担保は1対1で保全され、再貸出や運用に回されることはないとLednは説明する。これは、2022年の「暗号資産の冬」で破綻したかつての競合他社との差別化を図る点でもある。

今回のXAUT担保ローンも、このモデルを踏襲する。顧客は自分のXAUTトークンを担保として預け、その価値に応じた資金を借り入れる。金相場が上昇すれば含み益はそのままで、売却による課税イベントも発生しない。金を「持ったまま使う」という発想は、ビットコインを長期保有する投資家が担保ローンを活用する動きそのものだ。

TetherのCEOパオロ・アルドイーノ氏は声明で「デジタル資産が世界経済においてますます重要な役割を果たす中で、長期的な保有と財務的な柔軟性を両立させるソリューションへの需要が高まっている」と述べた。

金担保ローンの仕組み、トークン化で実現する新たな流動性

金担保ローンの仕組み、トークン化で実現する新たな流動性

XAUTを用いた担保ローンの基本的な流れはシンプルだ。ユーザーが保有するXAUTを担保として預け入れると、その時点の金価格に基づいて評価額が算出され、一定の担保掛け目(LTV=Loan to Value)で資金を借り入れられる。借入金は主にUSDTなどのステーブルコインで提供されるとみられる。

ここでのポイントは、金そのものを売却しない点にある。通常、金の保有者が現金を必要とする場合、金地金や金ETFを売却するしかない。だが売却すれば、その後の金価格上昇の恩恵を享受できなくなる。加えて、売却益に対してはキャピタルゲイン課税が発生する可能性もある。担保ローンはこうした不都合を回避しつつ、手元流動性を確保する手段となる。

スイスの金庫に保管された現物金、トークンの信頼性を担保

XAUTの裏付けとなる金地金は、スイスの厳重な金庫で保管されている。Tetherは四半期ごとに準備金の証明(アテステーション)を公表しており、XAUTの発行残高と保管金の量が一致していることを外部の会計事務所が確認している。トークン化された資産の世界では、この「裏付けの透明性」が信頼の基盤となる。

金のトークン化は、物理的な金の所有権をブロックチェーン上で細分化し、国境を越えて移転可能にする技術だ。XAUTの場合、1トークンが金1トロイオンスに対応するため、少額での取引には向かない面もあるが、大口投資家や機関投資家にとっては、保管コストや輸送リスクを抑えつつ金を保有できる手段として機能している。

Tetherの事業多角化、ステーブルコインから総合インフラ企業へ

Tetherの事業多角化、ステーブルコインから総合インフラ企業へ

今回の金担保ローンは、Tetherが進める事業多角化の最新局面にあたる。同社はUSDTの発行・運営で得た巨額の収益を背景に、ここ数年で金融、エネルギー、人工知能(AI)といった幅広い分野に進出してきた。

金事業はその中でも特に注力されている領域だ。TetherはXAUTの発行拡大に加え、実際に約140トンの現物金地金を蓄積しており、これは企業として世界でも有数の金保有量となる。さらに、貴金属マーケットプレイスのGold.comへの出資や、暗号資産金融企業Antalphaとの提携を通じて、XAUTの融資利用や現物交換の拡大を図っている。

USDTの利益を原資に、金とエネルギーとAIへ

USDTのビジネスモデルは、発行したステーブルコインの準備金を米国債などの安全資産で運用し、その利子収入を収益とするものだ。金利上昇局面では数十億ドル規模の利益を生み出し、この余剰資金が新規事業への投資原資となっている。

Tetherはビットコインのマイニング(採掘)事業や、再生可能エネルギーを活用したデータセンター建設、AIスタートアップへの投資も積極的に進めてきた。ステーブルコイン企業という枠を超えて、デジタル資産と現実資産をつなぐインフラ企業へと変貌しつつある。

金トークン化がもたらす暗号資産市場への影響

金トークン化がもたらす暗号資産市場への影響

金のトークン化と担保融資の組み合わせは、暗号資産市場に新たな資本効率の選択肢をもたらす。ビットコインが「デジタルゴールド」と呼ばれるように、金とビットコインはともに価値保存手段としての性格を持つ。両者が担保資産として同じように機能することで、投資家はより柔軟なポートフォリオ管理を行えるようになる。

一方で、規制面での不透明さは残る。金担保ローンが証券取引や銀行業務に該当するかどうかは、法域によって解釈が分かれる可能性がある。Tetherはこれまでも準備金の透明性や監査のあり方をめぐって批判を受けてきた経緯があり、新事業の展開にあたっても同様の監視に直面することが予想される。

伝統的金融と暗号資産の境界線がさらに曖昧に

Tetherの今回の動きは、伝統的金融と暗号資産の融合を示す好例だ。金という数千年の歴史を持つ資産が、ブロックチェーン技術と結びつき、ビットコイン担保ローンのモデルを借用して新たな金融サービスを生み出している。両者の境界線はますます曖昧になりつつある。

金のトークン化市場は現在、XAUTの他にもPAX Gold(PAXG)など複数のプロジェクトが存在するが、規模ではTetherが先行している状況だ。担保ローンというユースケースが拡大すれば、さらなる需要の取り込みも見込める。

この記事のポイント

  • Tetherが約23億ドル相当の金準備を活用し、トークン化金XAUTの担保ローン提供を発表した
  • 顧客は金を売却せずに流動性を得られ、価格上昇の恩恵を維持したまま資金調達が可能になる
  • ビットコイン担保ローンの成功モデルを金に応用し、伝統的資産と暗号資産の融合が加速している
  • TetherはUSDTの利益を原資に、金融・エネルギー・AIへの多角化を推進しており、金事業はその中核の一つだ
  • 規制の不透明さは残るものの、金トークン化と担保融資の組み合わせは資本効率の新たな選択肢となる
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