議会がCBDCを2030年まで禁止、ステーブルコインに追い風も銀行トークン化預金が対抗馬

米議会は6月下旬、連邦準備制度(FRB)が一般向けにデジタルドルを発行することを2030年末まで禁じる法案を通した。一見、サークルやテザーといったステーブルコイン発行体にとっては大きな勝利に見える。

だが、本当の競争相手はFRBではなく、JPモルガンやシティなど大手銀行が2027年にも立ち上げようとしている「トークン化預金」のネットワークだ。禁止措置は存在しなかった競合を排除したにすぎず、官製デジタル通貨を巡る主導権争いは形を変えて続いている。

4年間のCBDC発行禁止、その中身と経緯

4年間のCBDC発行禁止、その中身と経緯

今回の条項は「21世紀ROAD to Housing法」という住宅政策法案の中に織り込まれた。上院で85対5、下院で358対32という圧倒的な賛成多数で可決され、FRBが個人向けの中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行することを2026年12月31日まで、事実上2030年末まで凍結する。

FRBの定義では、CBDCとは中央銀行の直接の債務であり、一般国民がスマートフォンなどから使えるデジタル現金を指す。中国がデジタル人民元を大規模に展開し、欧州中央銀行も2029年の発行を目指す中、米国は真逆の道を選んだことになる。

同法案は2031年以降も、FRBがCBDCを再開するには議会の明示的な承認を必要とすると定めており、短期的な凍結にとどまらない重みがある。背後には「政府が個人の支払いを監視できる仕組みになりかねない」「銀行預金と民間デジタルドルの両方を圧迫する」という反対論の強さがあった。

ステーブルコインに追い風となる理由とその限界

ステーブルコインに追い風となる理由とその限界

サークルのUSDCやテザーのUSDTといったステーブルコインは、法定通貨に裏付けられた民間発行の価格安定型トークンだ。時価総額はすでに約3200億ドル(約48兆円)規模に達しており、昨夏に成立したGENIUS法で、1対1の準備金や毎月の開示といった連邦レベルのルールも整備された。

CBDCが参入すれば、中央銀行の信用力とバランスシートを武器に競合する。しかしFRBは研究論文とボストン連銀での小規模な実証実験を除き、一般向けCBDCの発行に本腰を入れていたわけではない。つまり、そもそも「迫り来る脅威」ではなかった相手を、法律で消し去ったに等しい。

GENIUS法は利息付与を禁じ、準備金の内訳を厳格に縛る一方、オープンで民間のデジタルドルを保護する条項も盛り込まれている。今回の住宅法案にも、この民間トークンを禁止対象から外す明文の例外が設けられており、少なくとも法的な不透明感は一掃された。

しかし、すぐには追い風が数字に跳ね返るとは限らない。規制の確かさをアピールする材料にはなるが、短期的な市場拡大よりも、後述する別の競合の方が現実的な影響が大きいとみられる。

銀行が仕掛けるトークン化預金という新たな敵

銀行が仕掛けるトークン化預金という新たな敵

JPモルガン・チェース、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴを含む十数行が、銀行持ち株会社ペイメント事業者「ザ・クリアリング・ハウス」を通じてトークン化預金の共通ネットワークを構築中だ。現場では「ザ・ブリッジ」や「ザ・チェーン」と呼ばれ、2027年前半の稼働を目指している。

トークン化預金とは、ブロックチェーン上で記録される普通の銀行預金にほかならない。預金保険(FDIC)の対象であり続け、銀行負債としての性質も変わらない。それでいて、ステーブルコインが持つ即時決済や24時間365日の移動、プログラム可能な支払いといった機能を備える。

GENIUS法は、デジタル台帳に記録された預金を「支払い用ステーブルコイン」の定義から除外した。さらに2026年4月、FDICはステーブルコインの準備金に預けられた資産にはトークン保有者へのパススルー保険が適用されないと明確化し、預金としての保護は銀行側にのみ残る形にした。

銀行の狙いは明白だ。預金は融資の原資であり、ビジネスの根幹を成す。もし巨額の資金がステーブルコインに流れれば、貸出余力が縮小し、資金調達コストも跳ね上がる。業界団体は昨年、最大6.6兆ドルが預金システムから流出する可能性を警告した。トークン化預金はその防波堤であり、同時に暗号資産の便益を銀行側に取り込む攻めの一手でもある。

オープンネットワークか銀行システムか、勝負の行方

オープンネットワークか銀行システムか、勝負の行方

市場には事実上、民間発行のステーブルコイン、銀行によるトークン化預金、そして凍結されたCBDCという3つのデジタルドルが存在する。今回の禁止措置で、勝負は2者間の争いに絞られた。

イングランド銀行のミーガン・グリーン役員は5月下旬の会合で、5年以内にトークン化預金がステーブルコインに取って代わるとの見通しを示し、「私たちはなぜステーブルコインにあれほど長く注目していたのか不思議に思う日が来るかもしれない」とまで言い切った。一方、FRBのクリストファー・ウォーラー理事は同じ場で「ステーブルコインは健全な決済競争であり、危険なものは何もない」と真っ向から反論している。

もっとも、銀行のネットワークが現時点で決定打となる保証もない。導入を急ぐ大口の多国籍企業以外に明確な需要は確認されておらず、ブロックチェーンのベンダーも未選定のままだ。2027年というスケジュールは、ステーブルコイン発行体が加盟店開拓やフィンテック連携、給与支払いシステムへの組み込みを先行させる十分な時間を与えている。

勝敗を左右するのは結局、日常的に使うデジタルドルが暗号資産ネットワーク上で動くのか、閉じた銀行システムの中にとどまるのかという点と、準備金から生まれる利息を保有者に還元できるかどうかだ。規制当局がこの点をどう整理するかによって、両陣営の競争条件は大きく変わる。

政策と執行の不透明さ

政策と執行の不透明さ

トランプ大統領は当初6月24日に予定されていた署名式を突如取りやめ、別の投票法案を優先させる姿勢を見せた。ただ、上下院の指導部は数日内に住宅法案への署名が行われるとみており、政治上の演出が法案の実質を左右する可能性は低い。

FRBによる一般向けCBDCが2031年まで禁止される点は固まった。しかし、議会で成立した法律が、実際のデジタル通貨競争をどこまで方向づけるかは未知数だ。法律が禁じたのは存在しなかった官製デジタルドルであり、現実の主戦場は民間と銀行のせめぎ合いにある。

この記事のポイント

  • 米議会はFRBによる一般向けCBDC発行を2030年末まで禁じる法案を可決した
  • ステーブルコイン発行体にとっては競合が消える形だが、FRBに発行計画はなく、直接的な恩恵は限定的
  • JPモルガンなど大手銀行が2027年目標でトークン化預金ネットワークを構築中で、こちらがより現実的な脅威となる
  • 勝敗はネットワークの開放性と利息付与を巡る規制のかじ取りに大きく左右される見込みだ
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