米国がイランの暗号資産1100億円超を押収、ベッセント長官が明言

米国政府がイラン由来の暗号資産を新たに大規模押収した。スコット・ベッセント財務長官が議会証言で明らかにしたもので、その総額は約10億ドル(約1,100億円)にのぼる。これは今年4月に公表された500億円規模の押収額を大幅に上回る数字だ。

イランは国際金融システムから締め出される中で、暗号資産を資金移動の抜け道として活用してきたとされる。今回の発表は、制裁逃れの手段と目されてきた暗号資産への追跡と差し押さえが、国家レベルで急速に進んでいる実態を浮き彫りにした。

ベッセント長官の議会証言と「操作経済怒り」作戦の成果

ベッセント長官の議会証言と「操作経済怒り」作戦の成果

この数字が飛び出したのは、レーガン国家経済フォーラムでの証言の場だった。ベッセント長官は、約6週間にわたる「Operation Economic Fury(操作経済怒り)」と称する軍事・経済の複合作戦の成果を強調。イラン経済を金融面から完全に遮断したと述べた。

長官の言葉を借りれば、イランは今や「財政的にテザー(Tether)の終わり」に達しているという。この発言はもちろんステーブルコインのテザー社を指したものではなく、「綱(tether)が切れる寸前」という意味の英語表現をもじったものだ。ただ、実際に制裁回避の現場でテザー(USDT)をはじめとするステーブルコインが多用されてきた事実を踏まえると、二重の意味を含んだ極めて象徴的なフレーズといえる。

月間670億円の資金が特定幹部に流出

証言で明かされた内容は衝撃的だ。米国の介入以前、イラン政府は月に4億ドルから5億ドル(約550億円から670億円)もの資金を吸い上げ、これを約80人の指導部メンバーで分配していたという。これに対し米政府が打撃を加えたことで、資金の流れは大幅に遮断されたとしている。

イランの国内経済も深刻な状況にある。ベッセント長官は同国のインフレ率が200%を超えた可能性を指摘。食料配給券の配布開始、インターネットの遮断、そして軍部隊の40〜50%に給与が支払われていない実態についても言及した。

指導部の分断と制裁の複雑化

長官は現在進行中のイランとの交渉についても触れ、その難しさを率直に認めた。米国とイスラエルによる指導部への攻撃により、イラン側の指揮系統が分断されており、誰と対話すれば合意に至れるのかさえ不透明になっているという。制裁を強化しつつも外交的解決を探るという難しい局面にある。

押収額は前回発表の2倍、制裁下の暗号資産凍結の加速

押収額は前回発表の2倍、制裁下の暗号資産凍結の加速

今回明らかになった約10億ドルという数字は、財務省が4月下旬に発表した5億ドル(約550億円)の約2倍にあたる。さらに4月24日に米外国資産管理局(OFAC)がイラン関連のウォレットを制裁対象に指定し凍結した3億4,400万ドル(約370億円)と比較しても、はるかに大規模だ。

押収額が段階的に拡大している背景には、分析技術の向上がある。ブロックチェーン上の取引は公開されており、一度アドレスが特定されれば関連ウォレットの追跡が可能になる。チェイナリシスやTRMラボといったブロックチェーン分析企業の技術が、こうした国家規模の捜査で中核的な役割を担っている。

制裁の執行が従来の銀行間取引の監視から、暗号資産のオンチェーン分析へと急速に拡大している流れは、業界全体にとって無視できない変化だ。規制対応を怠る取引所やDeFiプロトコルは、制裁違反のリスクが一段と高まることになる。

ホルムズ海峡の「ビットコイン保険」構想

ホルムズ海峡の「ビットコイン保険」構想

押収発表と同時に浮上してきたのが、イランが検討しているとされるホルムズ海峡の通航をビットコイン決済で管理する構想だ。イスラム革命防衛隊に近いとされるファルス通信が引用した国家文書によれば、このプラットフォームは「Hormuz Safe」と名付けられている。

ホルムズ海峡は、世界の石油輸送の約2割が通過する海上交通の要衝だ。この海峡の安全通航保証をブロックチェーン上で販売し、保険料はビットコインで受け取る。試算では年間100億ドル(約1兆1,000億円)超の収益を生み出す可能性があるとされている。イランの石油・ガス石油化学輸出業者組合の報道官も、特定の船舶に対して1バレルあたり1ドル相当のビットコインを通航料として課す案に言及していた。

ただし、この構想の実現可能性は極めて低いとみられている。仮に「Hormuz Safe」が立ち上がったとしても、OFACの制裁対象であるイラン政府が関与するプラットフォームを、欧米の海運会社や保険会社が利用することは現実的ではない。むしろこの構想は、制裁下でなお外貨獲得の回路を模索するイランの苦肉の策と捉えるべきだろう。

ビットコインが持つ二面性

ここで浮き彫りになるのは、ビットコインが持つ二面性だ。一方では検閲耐性と非中央集権性によって、金融包摂や自由な価値移転を実現するツールとして機能する。しかし他方では、国家による制裁回避や不正資金の移動手段として利用されるリスクも抱えている。

ビットコインのネットワーク自体は中立だ。ただ、その利用者が誰であり、どのような目的で使用するかは、業界全体の信用に直結する問題となる。押収と制裁の事例が増えるほど、コンプライアンス対応の重要性は増していくことになる。

制裁と暗号資産、今後の展望

制裁と暗号資産、今後の展望

米国による暗号資産の押収は、イランだけを対象にした話ではない。過去にはビットフィネックスハック事件で盗まれたBTC、シルクロード関連の資産など、刑事事件と連動した差し押さえが相次いでいる。政府は押収した暗号資産をオークションで売却するケースもあり、これが市場の供給圧力に繋がるとの見方も一部にある。

ただ、今回の約10億ドルという金額は、暗号資産市場全体の時価総額と比較すれば限定的な規模にとどまる。むしろ市場への影響よりも、規制と監視の枠組みが急速に整備されつつあるというシグナルとしての意味合いが大きい。

イラン側が暗号資産を外貨獲得の代替手段としてどの程度本気で活用しようとしているのかは未知数だが、米国の監視網がこれほど強化された状況では、大規模な資金移動は極めて困難だ。制裁逃れの手段として暗号資産に依存する戦略は、限界を迎えつつあるとみるのが妥当だろう。

この記事のポイント

  • 米財務省がイラン関連の暗号資産約10億ドル(1,100億円超)を押収した
  • イラン政府は月間550億円超を吸い上げ、約80人の幹部に分配していたとされる
  • 押収額は4月公表の約2倍で、ブロックチェーン分析技術の進歩が背景にある
  • ホルムズ海峡の通航をビットコイン決済で管理する構想が浮上しているが、実現性は乏しい
  • 制裁回避目的の暗号資産利用は、監視強化によって限界を迎えつつある
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