米上院、ステーブルコイン利回り制限で妥協案模索——銀行業界の反発回避と法案成立を狙う

米上院議員らは2026年3月10日、停滞している暗号資産市場構造法案「デジタル資産市場透明化法(Digital Asset Market Clarity Act)」の進展に向け、ステーブルコインの利回り規制に関する妥協案を提示した。

この動きは、ステーブルコインが銀行預金の代替となることで発生する「預金流出」を警戒する銀行業界のロビー活動に対応するものだ。ビットコイン(BTC)は同日、69,000ドル台(約1,030万円)を維持しており、市場は規制の枠組みが整うことによる機関投資家の流入継続を注視している。

法案の成立には、銀行業界が懸念する利回り制限と、暗号資産(仮想通貨)業界が求めるユーザーインセンティブの維持という、相反する要求の調整が不可欠となっている。

ステーブルコイン利回りを巡る対立と妥協の兆し

ステーブルコイン利回りを巡る対立と妥協の兆し

米上院銀行委員会のメンバーであるアンジェラ・オルソブルックス議員(民主党)は、ワシントンで開催されたアメリカ銀行協会(ABA)のサミットで、ステーブルコイン報酬に関する妥協案の策定を進めていることを明らかにした。

オルソブルックス議員は、ノースカロライナ州選出のトム・ティリス議員(共和党)と協力し、数ヶ月間遅延している同委員会の公聴会を再開させるための道筋を探っている。ビットコイン価格が69,791ドル付近で推移するなか、法整備の遅れは市場の不透明感を強める要因となっている。

銀行業界が懸念する「預金流出」のリスク

銀行業界が最も警戒しているのは、ステーブルコインが高い利回りを提供することで、伝統的な銀行の普通預金口座から資金が流出するシナリオだ。これを「預金流出(Deposit Flight)」と呼ぶ。

ステーブルコインとは、米ドルのような法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産だ。銀行側は、ステーブルコインの保有に対して利息や報酬が支払われる場合、それは実質的に銀行業務と同じであり、同様の厳しい規制が適用されるべきだと主張している。

超党派議員による折衷案の策定

オルソブルックス議員は、交渉の両当事者が「少しずつ不満を持つ」ような妥協が必要だと述べた。これは、どちらか一方の主張を完全に通すのではなく、実務的な落とし所を見つける段階に入ったことを示唆している。

提案されている妥協案は、銀行が恐れる預金流出を防ぐための「ガードレール」を設置しつつ、同時に暗号資産分野のイノベーションを阻害しないことを目指している。具体的には、報酬の対象となる活動を限定する方向で議論が進んでいる。

報酬体系の再定義——「保有」から「活動」へ

報酬体系の再定義——「保有」から「活動」へ

現在議論の中心となっているのは、どのような形態の報酬であれば許容されるかという点だ。これまでの法案では、ステーブルコイン発行者が顧客を引きつけるために利息を支払うことを禁じてきた。

GENIUS法による直接的な利息支払いの禁止

2025年に成立した「米ステーブルコイン国家イノベーション確立・誘導法(GENIUS Act)」は、決済用ステーブルコインの発行者が利息を支払うことを禁じている。

ABAのロブ・ニコルズ会長は、暗号資産取引所や関連企業がこの制限を回避し、実質的な利息を「報酬」という名目で提供していると批判した。これは議会の意図を逃れる行為であるとの見方が強い。

取引ベース報酬という新たな選択肢

マイク・ラウンズ議員(共和党)は、報酬の基準を「口座残高(保有量)」ではなく「アカウントの活動状況(取引頻度)」に結びつける可能性を示唆した。

これはクレジットカードのポイント還元に近い仕組みだ。単に資産を置いているだけで増える「利息」ではなく、決済や送金といった「利用」に対して付与される特典であれば、銀行預金との直接的な競合を避けられるとの考えがある。

つまり、ステーブルコインを「貯蓄手段」ではなく「決済手段」として機能させるための制約を課すということだ。

規制当局と大手金融機関の動向

規制当局と大手金融機関の動向

この妥協案には、米通貨監督庁(OCC)や大手銀行のトップも関心を示している。規制の方向性が明確になることで、既存金融機関の参入障壁が下がる可能性があるからだ。

OCCによるGENIUS法導入の動き

OCCは最近、GENIUS法の多くの条項を採用する規則案を提示した。この中では、ステーブルコイン発行者による利息禁止の回避を許さない姿勢が示されている。

一方で、暗号資産業界側は、顧客インセンティブとして設計された報酬プログラムであれば、OCCの提案に抵触せずに運用できる余地があると楽観視している。規制の「グレーゾーン」をどのように埋めるかが焦点だ。

JPモルガン・ダイモンCEOの柔軟な姿勢

米国最大の銀行であるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、最近のインタビューで「取引ベースの報酬」であれば業界として受け入れ可能であるとの考えを示唆した。

暗号資産に対して批判的な姿勢で知られるダイモン氏が妥協の可能性に言及したことは、銀行業界全体のトーンダウンを象徴している。ホワイトハウスで開催された暗号資産関連の会合でも、同様の提案が業界側からなされている。

法案成立を阻む複数のハードルと政治的背景

法案成立を阻む複数のハードルと政治的背景

ステーブルコインの利回り問題が解決したとしても、Clarity Actの成立までにはまだ多くの障害が残っている。2026年という政治的に重要な時期において、議会カレンダーは非常に過密だ。

DeFi規制と人事任命を巡る民主党の主張

上院民主党議員らは、分散型金融(DeFi)セクターが不正国家や犯罪者に悪用される脆弱性を持っていると懸念を表明している。DeFiとは、銀行などの仲介者なしにプログラム上で金融取引を行う仕組みだ。

また、商品先物取引委員会(CFTC)や証券取引委員会(SEC)の空席となっているポストに、民主党系の人物を任命することを求めている。これらの人事は、今後の規制の執行方針を左右するため、激しい政治交渉の材料となっている。

トランプ大統領の署名拒否リスクと議会カレンダー

さらに大きな不確定要素は、ドナルド・トランプ大統領の動向だ。トランプ氏は、議会が自身の求める「有権者IDパッケージ」を送付しない限り、いかなる法案にも署名しないとの構えを見せている。

中東情勢の緊迫化など、外交問題に議会の時間が割かれることも懸念材料だ。中間選挙を控えたタイトなスケジュールの中で、暗号資産法案に十分な審議時間が割り当てられるかは不透明な状況が続いている。

独自の分析:ステーブルコインが「金融インフラ」へ進化する過程

独自の分析:ステーブルコインが「金融インフラ」へ進化する過程

今回の妥協案を巡る議論は、ステーブルコインが単なる「投機対象の周辺ツール」から、国家の「基幹金融インフラ」へと進化しようとしている過程の産物だ。

銀行業界がこれほどまでに強く反発するのは、ステーブルコインの利便性が既存の銀行システムを脅かすレベルに達したことを認めているからに他ならない。24時間365日稼働し、即時決済が可能なステーブルコインに「利回り」が加われば、資本効率の面で伝統的な銀行預金は太刀打ちできなくなる。

しかし、筆者は今回の「取引ベースの報酬」への移行は、長期的には暗号資産エコシステムにとってプラスに働くと分析する。単なる「保有による受動的な利益」を制限し、「利用による能動的な報酬」を促すことは、ステーブルコインの本来の目的である「決済の効率化」を加速させるからだ。

また、JPモルガンのようなメガバンクが妥協の姿勢を見せたことは、ステーブルコインを敵対者として排除するのではなく、共存可能なルールの中に閉じ込めようとする戦略の転換を意味する。このルールが確立されれば、銀行自体がステーブルコイン発行体として本格的に参入する道も開かれるだろう。

この記事のポイント

  • 米上院議員らが、ステーブルコインの利回り規制に関する超党派の妥協案を策定中である。
  • 銀行業界は「預金流出」を懸念しており、保有残高に応じた報酬の支払いに強く反対している。
  • 妥協案の核心は、報酬を「保有」ではなく「取引活動」に結びつけることで、銀行預金との差別化を図ることにある。
  • 法案成立には、DeFi規制や人事任命、トランプ大統領の署名問題など、依然として高い政治的ハードルが存在する。
  • 規制の明確化は、ステーブルコインが決済インフラとして既存金融に組み込まれる重要なステップとなる。

出典

  • CoinDesk「Senators try to unlock stalled crypto Clarity Act with compromise on stablecoin yield」(2026年3月10日)
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