暗号資産(仮想通貨)市場において、決済や取引の基盤となるステーブルコインの利用が爆発的に拡大している。2026年2月の月間送金ボリュームは1.8兆ドル(約270兆円)に達し、過去最高記録を更新した。
特筆すべきは、米サークル(Circle)社が発行するUSDCの躍進だ。USDCは月間取引高の約70%を占め、長年市場を牽引してきたテザー(USDT)を大きく引き離した。時価総額ではUSDTが依然として首位だが、実際の利用実態を示す送金量ではUSDCが主役の座を奪いつつある。
この動きは単なるシェア争いにとどまらず、市場全体の「買い余力」が急速に回復していることを示唆している。取引所へのステーブルコイン流入額は3週間ぶりの高水準となる665億ドルに達しており、ビットコイン(BTC)をはじめとする主要銘柄の価格押し上げ要因として注目されている。
ステーブルコイン市場が過去最高の取引高を記録

2月の月間取引高は1.8兆ドルに到達
データ分析プラットフォームAlliumの報告によると、2026年2月のステーブルコイン総送金ボリュームは1.8兆ドルを記録した。これは、暗号資産市場がかつてない規模で実需および投資の両面から活用されていることを裏付けている。
ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動(ペグ)するように設計された暗号資産だ。価格変動が激しいビットコインなどとは異なり、価値が安定しているため、取引所での売買の対価や、分散型金融(DeFi)での運用、国際送金などに広く用いられる。
今回の記録更新は、ビットコイン価格が一時74,000ドル台に乗せるなど、市場全体が活況を呈した時期と重なる。投資家が利益確定した資金をステーブルコインで保有したり、新たな買い注文のために資金をステーブルコインに換金したりする動きが活発化した結果だ。
USDCが市場シェアの70%を独占
月間取引高の内訳を見ると、USDCの存在感が際立っている。USDCの2月の送金ボリュームは1.26兆ドルに達し、市場全体の約70%を占めた。これは、2018年9月のローンチ以来、同銘柄にとって記念碑的な数字である。
一方、競合であるテザー(USDT)の同月の送金ボリュームは5,140億ドルにとどまった。時価総額ではUSDTが約1,840億ドルと、USDC(約774億ドル)の2倍以上の規模を誇るが、実際のネットワーク上での動きはUSDCが圧倒している。
つまり、USDTは「保有(貯蔵)」される傾向が強く、USDCは「流通(使用)」される傾向が強いという特性が鮮明になった。この乖離は、両銘柄がターゲットとするユーザー層や利用シーンの違いを反映している。
USDCとUSDTの「逆転現象」とその背景

時価総額と取引ボリュームの乖離
時価総額で劣るUSDCが、なぜ取引ボリュームでUSDTを凌駕しているのか。この背景には、USDCがオンチェーン決済やDeFi(分散型金融)エコシステムにおいて標準的な資産として定着している事実がある。
DeFiとは、銀行などの仲介者を介さずにブロックチェーン上で構築される金融サービスのことだ。USDCはスマートコントラクト(自動実行される契約)との親和性が高く、透明性が担保されているため、プロトコル内での流動性提供や貸付の担保として優先的に選ばれる傾向がある。
一方、USDTは中央集権型取引所(CEX)での取引ペアとして根強い人気を誇るが、オンチェーンでの複雑な金融操作においてはUSDCに軍配が上がるケースが多い。結果として、1単位あたりの回転率がUSDCの方が極めて高くなっている。
機関投資家とDeFi利用の拡大がUSDCを後押し
USDCの発行元であるサークル社は、米国の規制準拠を重視する姿勢を貫いている。これが、コンプライアンスを重視する機関投資家からの信頼獲得につながっている。
実際に、3月に入ってからのUSDCの新規発行ペースは凄まじい。ブロックチェーン分析企業Arkhamのデータによると、3月の第1週目だけで30億ドル以上のUSDCが新規発行(ミント)された。サークル社はSolana(ソラナ)チェーン上でも2億5,000万ドルのミントを行っており、月間では120億ドル規模の発行ペースに達する勢いだ。
これに対し、USDTの供給量は同期間において大きな変化を見せていない。この供給量の伸びの差は、市場に流入する「新規資金」の多くがUSDCを選択している可能性を示唆している。
市場の流動性回復とビットコイン価格への影響

取引所への流入額が急増
ステーブルコインの動きは、将来の価格動向を占う先行指標となる。CryptoQuantのデータによれば、取引所に保有されるステーブルコインの総量は、3月に入り665億ドルの高水準に達した。
3月5日には、1日だけで約51.4億ドルのステーブルコインが取引所に送金された。これは3月1日の11.4億ドルと比較して約4.5倍に相当する。取引所へのステーブルコイン流入は、投資家が「いつでも他の暗号資産を購入できる準備を整えた」ことを意味し、市場では「買い余力(Buying Power)」の増大と解釈される。
過去のデータを見ても、取引所へのステーブルコイン流入の急増は、ビットコイン価格の反転や急騰のトリガーとなることが多い。投資家がサイドライン(待機状態)から市場へ戻りつつある兆候と言える。
SSR指標が示す強気のサイン
市場の需給バランスを測る指標の一つに、SSR(Stablecoin Supply Ratio:ステーブルコイン供給比率)がある。これはビットコインの時価総額をステーブルコインの総時価総額で割ったものだ。
SSRが低いほど、ビットコインの供給量に対してステーブルコインの供給量が多いことを示し、相対的な買い圧力が強いと判断される。CryptoQuantのアナリストであるSunny Mom氏は、2月に急落したSSRが着実に回復していると指摘した。
これは、ビットコイン価格の上昇ペースに対し、ステーブルコインの供給増が追いついてきている、あるいはそれ以上のペースで資金が流入していることを示唆する。市場の流動性が厚みを増しており、現在の価格水準を維持、あるいはさらに押し上げるための「燃料」が補給されている状態だ。
規制環境の変化とステーブルコインの将来像

米国におけるステーブルコイン法案の進展
ステーブルコインの普及を後押ししているのは、技術や市場の要因だけではない。法整備の進展も大きな役割を果たしている。米国ではフロリダ州議会で州レベルのステーブルコイン法案が可決されるなど、法的枠組みの明確化が進んでいる。
規制の明確化は、これまでリスクを懸念して参入を控えていた伝統的な金融機関や一般企業の参入障壁を下げる。USDCが送金ボリュームで首位に立った背景には、こうした「規制に守られた資産」としての地位が確立されつつあることが影響しているとの見方が強い。
サークル社はまた、決済大手との提携やポリマーケット(Polymarket)などの予測市場での決済採用など、実社会での決済インフラとしての機能を強化している。単なる「トレードの道具」から「デジタル決済の基盤」への変貌が、取引高の爆発的な増加を支えている。
Circle社のIPO戦略と信頼性の向上
独自の見解として、サークル社が計画している新規株式公開(IPO)に向けた動きも無視できない。上場企業としての透明性を追求する過程で、同社は準備金の詳細な開示や監査を徹底している。
この「透明性の高さ」は、かつて準備金の裏付けについて疑念を向けられたテザー社と比較した際、大きなアドバンテージとなる。特に大口の機関投資家や決済サービスプロバイダーにとって、カウンターパーティリスク(取引相手の破綻リスク)を最小化できるUSDCは、長期的なインフラとして選択しやすい。
今後、ステーブルコイン市場は「規模のUSDT」と「信頼・回転率のUSDC」という二極化がさらに進むだろう。しかし、決済インフラとしての覇権を握るのは、今回のデータが示す通り、より活発に流通し、規制と調和するUSDCである可能性が高いと予測される。
この記事のポイント
- 2026年2月のステーブルコイン月間取引高は1.8兆ドルの過去最高を記録した。
- USDCが市場シェアの70%を占め、送金ボリュームでテザー(USDT)を圧倒した。
- 取引所へのステーブルコイン流入額は665億ドルに達し、市場の買い圧力が強まっている。
- USDCの躍進は、規制準拠とDeFi・決済分野での実需拡大が主な要因である。
- 供給量の急増やSSR指標の回復は、暗号資産市場のさらなる強気相場を示唆している。
出典
- Cointelegraph「USDC beats Tether as stablecoin transfer volume hits $1.8T all-time high」(2026年3月7日)
- Allium「Stablecoin Transaction Volume Data」(2026年3月)
- CryptoQuant「Bitcoin: Stablecoin Supply Ratio Quicktake」(2026年3月7日)

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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