ホワイトハウス、法執行機関と協議へ 暗号資産明確化法の推進で

米ホワイトハウスが、上院で審議中の暗号資産市場構造法案「デジタル資産市場明確化法(Clarity Act)」を前に、法案の反対勢力である法執行機関の代表と協議の場を設ける。開発者をマネーロンダリング規制の対象から除外する条項をめぐり、全米保安官協会などが強く反発しており、政権はその溝を埋めたい考えだ。

計画に詳しい関係者によると、会合は6月30日(月)に設定されているという。ホワイトハウスとしては、暗号資産顧問のパトリック・ウィット氏を中心に、法案を夏の議会休会前に上院本会議で可決させたい思惑がある。法執行機関が指摘する資金洗浄リスクと、業界が求める開発者保護をどう両立させるのかが焦点となる。

この記事では、Clarity Act の開発者保護条項をめぐる対立の構図、法執行機関側の具体的な懸念、そして法案成立を阻む政治的なハードルまでを整理する。

ホワイトハウス主導の会合、法執行機関を招請

ホワイトハウス主導の会合、法執行機関を招請

暗号資産を巡る包括的な市場規制を盛り込んだClarity Actは、上院銀行委員会を通過したものの、依然として多くの論点を抱えている。なかでも開発者保護の項目は、法執行機関からの反発が根強い。ホワイトハウスはこれまでも、反対派との個別協議を重ねてきたが、今回は改めて一堂に会する形で集中的に説得を試みる見通しだ。

CoinDeskの取材に対して、ホワイトハウス報道官からは月曜会合に関する即時のコメントは得られていない。しかし関係者によれば、会合の目的は「残る懸念を解消すること」であり、特に法執行機関が問題視する ブロックチェーン規制確実性法(BRCA) に相当する条項(第604条)の文言を巡って意見交換が行われるとみられている。

パトリック・ウィット大統領顧問は今月上旬、業界主催のイベントで「現在、不確実性のなかで活動する事業者や主体に、真の規制上の制約を課そうとしている」と発言。法執行関係者に対しては「この法案の最大の後押し役になるべきだ。これこそが欠けているものだからだ」と呼びかけた。

「開発者保護」条項をめぐる対立の構造

「開発者保護」条項をめぐる対立の構造

開発者は「送金業者」なのか

Clarity Actの中核的な争点は、第604条の解釈だ。この条項は、特定のソフトウェア開発者が「マネー・トランスミッター(送金業者)」とみなされることを防ぐ。つまり、分散型金融(DeFi)プロジェクト向けのツールを開発しても、そのツールがどのように使われるかを最終的にコントロールする意図がない限り、開発者個人が資金洗浄対策などの法的責任を問われることはない。

業界からは、この保護がなければ米国内でのDeFi開発は萎縮し、イノベーションが海外に流出するとの声が上がっている。実際、この条文は「ブロックチェーン規制確実性法」と銘打たれ、前回の立法努力から名称を引き継いでいることからも、業界にとっては長年の悲願といえる。

「空白の免責」を懸念する法執行機関

一方で、全米保安官協会をはじめとする法執行機関は「ミキサー(攪拌サービス)やタンブラー、DeFiに一律の免責を与える正当な理由はない」と批判する。同協会は5月に上院銀行委員会の委員長に宛てた書簡で、ソフトウェア開発者であっても実態として送金業に従事しているケースがあると指摘し、銀行秘密法(BSA)の適用除外を広く認める内容に懸念を表明した。

彼らが怖れるのは、悪意ある主体が開発者という立場を隠れ蓑に、資金洗浄や制裁逃れのためのツールを提供するシナリオだ。実際、北朝鮮のハッキング集団が分散型ミキサーを利用している事例なども念頭にある。

法執行機関の懸念と業界の反論

法執行機関の懸念と業界の反論

業界側は、Clarity Actには違法金融対策の新たな権限が数多く盛り込まれていると反論する。ブロックチェーン協会は「この法案がなければ、規制の空白が残り、犯罪捜査は手探りのままになる」と主張している。

具体的には、商品先物取引委員会(CFTC)の権限強化や暗号資産取引所への登録義務など、法執行当局が実際に使えるツールが法案には含まれている。開発者保護の条項だけを切り取って「犯罪者に甘い」と評するのはミスリーディングだというのが、推進派の理屈だ。

ホワイトハウスのウィット顧問も、この点を強調する。彼は「現行のグレーゾーンから、明確なルールに移行することで、むしろ取り締まりは容易になる」との立場を示している。それでも保安官協会など現場の声は強く、会合ではこうした「ツール」の中身を具体的に示し、信頼醸成を図る必要がありそうだ。

法案成立への政治的ハードル

法案成立への政治的ハードル

民主党内の賛否と倫理条項

Clarity Actを上院で可決するには60票が必要だ。共和党が多数を占めるものの、それだけでは足りず、一定数の民主党議員の賛成が不可欠となる。ところが、民主党の重鎮エリザベス・ウォーレン議員は、法案の資金洗浄対策の甘さを執拗に批判し続けている。

さらに、銀行委員会の採決で賛成票を投じた民主党議員を含め、複数の議員が「大統領を含む政府高官が暗号資産に個人的な利害関係を持つことを禁じる倫理条項」を法案に盛り込まなければ、本会議では賛成しないと明言している。これはトランプ大統領自身が暗号資産関連ビジネスに関与してきた経緯を踏まえたもので、成立には避けて通れない修正点となっている。

時間切れとトランプ氏の署名拒否問題

スケジュール面でも厳しさが増している。上院多数党首のジョン・スーン議員は「数週間以内に法案を本会議にかける」意向と報じられているが、夏の休会までに実質的な審議時間は約4週間しか残されていない。

さらに混乱に拍車をかけているのが、トランプ大統領の立法拒否姿勢だ。大統領は有権者識別法の成立を迫って他の法案への署名を拒んでおり、住宅価格対策法案もその影響で署名式がキャンセルされた。Clarity Actに直接の影響があるかは不透明だが、TDカウエンの政策アナリスト、ジャレット・サイバーグ氏は「トランプ氏が拒否権を発動する可能性は低い」としつつも、憲法上の10日間ルールで自然成立するシナリオを想定している。

タイミング次第では、Clarity Actもトランプ氏の「人質」にされるリスクがゼロではない。業界にとっては、まさに綱渡りの状況が続いている。

今後の展望と市場への示唆

今後の展望と市場への示唆

月曜の会合が実りあるものになれば、法執行機関側の不支持が和らぎ、上院通過への道筋が大きく開ける可能性がある。逆に、安保官協会などが態度を硬化させれば、民主党穏健派の賛成票を掘り起こすのが難しくなり、法案は会期末を迎えて廃案となるおそれもある。

市場にとっては、Clarity Actの成否は単なる政治ニュースではない。開発者保護が明文化されれば、米国発のDeFiプロジェクトへの投資が再び活発化し、暗号資産全体のエコシステムに好影響を与えると期待されている。一方で、倫理条項を巡る大統領と議会の綱引きは、最終盤まで法案の行方を不透明にし続けるだろう。

ウィット顧問の言葉通り、規制の欠如が最大の不確実性であり続けてきた。その解消に一歩近づくのか、それともまた先送りとなるのか。6月30日の会合は、その分岐点になるかもしれない。

この記事のポイント

  • ホワイトハウスが法執行機関と会合し、Clarity Act の開発者保護条項をめぐる懸念解消を図る
  • 保安官協会はミキサーやDeFiへの「空白の免責」を問題視し、業界は新たな取締ツールの存在を訴える
  • 法案可決には民主党の賛成と政府高官の暗号資産保有を禁じる倫理条項の扱いが鍵
  • 夏の休会までの時間的制約とトランプ氏の立法拒否姿勢が成立をさらに難しくしている
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